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広島高等裁判所 昭和37年(ツ)31号 判決 1963年2月06日

上告人 控訴人・被告 熊原正三

訴訟代理人 椢原隆一

被上告人 被控訴人・原告 有限会社田中共栄商会

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告理由は別紙のとおりである

上告理由第一点について

論旨は、原判決が上告人の合意解除の主張を排斥したのは、採証法則ないし経験則に違背するとの主張と解すべきところ、原判決の右判断は相当であつて所論の違法はない。右は結局原審の専権に属する事実認定を非難するに尽き上告適法の理由たりえない。

上告理由第二点について

(一)  釈明権不行使の主張について

おもうに、釈明権は、当事者主義、弁論主義の欠点を補ない事案の適正、妥当な解決のために裁判所に付与された権能であるが、当事者はまずその責任において申立、主張等をすべきであり、釈明は右のように、あくまで補充的なものである。従つてそれはすくなくとも、訴訟の程度より見て、当事者が不注意または誤解によつて申立、主張等をしなかつた如きばあいにおいて、裁判所が釈明権を行使しなかつたことが、裁判所の公正或は適正な裁判の理念に著しく反するものと認められるときに限り、釈明権の不行使が上告理由となるのである。本件記録を調査すると、上告人は、弁護士たる訴訟代理人を選任し、訴訟の当初から売買の目的物に瑕疵があつたことを主張しているのであるから、右の瑕疵をいかなる抗弁として構成し、主張するか、従つて所論の如き同時履行の抗弁等を主張するか否かは上告人自身の責務であつて、原審がその釈明をしなかつたからといつて、前記理念に反するものとはいえない。所論は上告理由としてとるをえない

(二)  理由不備の主張について

売買の目的物に瑕疵があつたとしても、契約解除等の抗弁が採用されない以上(本件では右瑕疵の故に売買の合意解除をなしたとの上告人の主張が採用されなかつたのである)、右瑕疵があることからただちに売主が代金請求権を失ういわれはない。したがつて、所論の原審のなした売買目的物が不良品であつたとの認定も、本件代金請求を認容することの妨げとなるものではなく、この点につき原判決理由に不備ないし齟齬の違法はない。

よつて、本件上告は理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法第四〇一条第九五条第八九条にしたがい主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本冬樹 裁判官 胡田勲 裁判官 長谷川茂治)

上告理由

第一点原判決の法令違反並に常識に反する事実誤認

1、乙第一号証 返品領収証について

本件冷蔵庫は耐久消費財で長きに亘つて使用するもので、騒音と水漏が致命的な瑕疵で(使用者が長きに亘つて静かな夜まで騒音に悩まされることは到底忍び難い)専問の技術員も根本的には工場へ送り返さねば直らないほどの不良品で上告人はそれまで幾回となく修理を要求し続けて来た。遂に完全な品物を渡さない不誠意にたまりかねて契約を解除したのである。その際被上告人側は男性二人、上告人側は妻たる女性一人であつた。

2、被上告人が修繕した完成品又は新品でも適当な時期に提供しているならともかく全然それをしていない点からも契約は明示的にか(若しくは默示的にか)解約されたものとみるのが常識である。

従つて原判決は契約解除の規定を誤り且つ又取引の常識を著しく破つた認定である

第二点釈明権の不行使と理由不備

原判決理由に「成立に争いのない乙第一号によれば右冷蔵庫が不良品であるため、控訴人が昭和三五年七月十四日被控訴人に右冷蔵庫を返したことは認められるけれども……………」

とある。

さすれば此の不良品が致命的な不良性をもつか否か又これは法的には不完全履行であるから同時履行の抗弁等に釈明権を行使すべきであつた。

不良品として返品を受け長期間完全に履行しなかつた事に鑑みて、代金のみを相手方に請求することは商取引の原則を著しく破つたもので右判決は論理一貫性を欠くと思料する。

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